乳がんの治療を続けながら、経済的な不安を抱えていませんか?抗がん剤の副作用で思うように働けない、医療費の負担が重い、家族に心配をかけている…。そんな悩みを一人で抱えている方は少なくありません。
実は、乳がんで治療中の方や後遺症に悩む方の中には、障害年金を受給できる可能性がある方が多くいらっしゃいます。しかし、「がんでも障害年金がもらえるの?」「自分は対象になるの?」と疑問に思う方や、制度自体を知らない方がほとんどです。
障害年金は、病名ではなく「日常生活への影響度」で判断されます。再発や転移がない場合でも、抗がん剤の副作用で日常生活に支障が出ていれば、受給できる可能性があります。実際に、神戸・兵庫県で当事務所がサポートした乳がんの方の多くが、障害年金を受給されています。
この記事では、障害年金専門の社会保険労務士として、乳がんで障害年金を受給するための条件、認定基準、申請方法を詳しく解説します。また、実際に受給できた3つの事例もご紹介します。
この記事でわかること
- 乳がんで障害年金を受給できる3つの条件
- 障害等級(1級・2級・3級)の認定基準
- 申請時に重要な4つのポイント
- 実際に受給できた事例3選(抗がん剤の副作用、初診日証明が困難、不支給後の再申請)
- よくある質問と回答
申請手続きは複雑で、医師への診断書依頼や書類作成に不安を感じる方も多いでしょう。しかし、適切なサポートを受けることで、受給の可能性は大きく高まります。一人で悩まず、まずは専門家に相談してみませんか?
神戸・兵庫県で障害年金申請をお考えの方は、清水総合法務事務所にお気軽にご相談ください。初回相談は無料です。あなたの状況を丁寧にお伺いし、最適な申請方法をご提案いたします。
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それでは、乳がんと障害年金について、詳しく見ていきましょう。
乳がんとは?障害年金の対象になる理由
乳がんの基本知識
乳がんとは、乳房にある乳腺に発生する悪性腫瘍のことです。多くは乳管から発生しますが、まれに小葉から発生することもあります。乳管や小葉にとどまっている状態を「非浸潤がん」、乳管や小葉を破って広がっている状態を「浸潤がん」と呼びます。
厚生労働省の統計によれば、乳がんは女性の悪性腫瘍の中で最も頻度が高く、40代後半から50代前半に罹患率のピークがあります。早期発見できれば治癒の可能性が高い一方で、初期症状が乏しいため、診断時にすでにリンパ節や骨、肺、肝臓、脳などに転移しているケースも少なくありません。
乳がんの病期(ステージ)はⅠ期からⅣ期まであり、腫瘍の大きさ、リンパ節転移の有無、遠隔転移の有無によって分類されます。治療方法は、手術療法(乳房部分切除術、乳房全切除術など)、薬物療法(抗がん剤治療、ホルモン療法など)、放射線療法を、患者さんの状態に応じて組み合わせて行われます。
なぜ乳がんで障害年金を受給できるのか
「がんでも障害年金がもらえるの?」と驚かれる方は多いのですが、実は障害年金は病名で判断されるのではなく、日常生活や労働にどれだけ支障が出ているかで判断される制度です。
乳がんの場合、以下のような状況で障害年金の対象となる可能性があります。
- 抗がん剤治療の副作用: 強い倦怠感、吐き気、食欲不振、手足の痺れなどで、日常生活に大きな制限がある
- 手術後の後遺症: リンパ節切除による腕の浮腫や可動域制限、痛みなどで家事や仕事に支障がある
- 転移による症状: 骨転移による痛みで歩行困難、脳転移による高次脳機能障害など
- 放射線治療の影響: 脳への放射線照射による浮腫や壊死、歩行障害など
重要なのは、再発や転移がなくても、治療の副作用で日常生活に支障が出ていれば対象になるという点です。「まだ動けるから対象外」「ステージが軽いから無理」と思い込んで、申請を諦める必要はありません。
また、医師の中にも「がんで障害年金を受給できる」ことを知らない方が多く、患者さんに情報が届いていないケースが少なくありません。そのため、制度を知らずに経済的な困難を抱えている方が多いのが現状です。
次のセクションでは、乳がんで障害年金を受給するための3つの条件について詳しく見ていきます。なお、障害年金制度の基礎知識については、[関連記事: 障害年金とは?基礎知識と申請の流れ]もご参考ください。
乳がんで障害年金を受給できる3つの条件
障害年金を受給するためには、以下の3つの条件をすべて満たす必要があります。一つでも欠けると受給できませんので、まずはご自身がこれらの条件を満たしているか確認しましょう。
条件1: 初診日要件
初診日とは、乳がんに関する症状で初めて医療機関を受診した日のことです。この初診日が証明できることが、障害年金申請の大前提となります。
初診日は、障害年金の種類(障害基礎年金か障害厚生年金か)や保険料納付要件の判定基準となる極めて重要な日です。初診日にどの年金制度に加入していたかによって、受給できる年金の種類と金額が変わります。
【重要な注意点】良性腫瘍と悪性腫瘍は別の傷病
乳がんの申請で特に注意が必要なのが、乳腺線維腫瘍などの良性腫瘍と乳がん(悪性腫瘍)は別の傷病として扱われるという点です。
例えば、数年前に乳腺線維腫瘍と診断されて経過観察をしていた方が、その後乳がんと診断された場合、初診日は「乳腺線維腫瘍で受診した日」ではなく、「乳がん(悪性腫瘍)の疑いで検査を受けた日、または乳がんと診断された日」となります。良性腫瘍ががん化することはなく、組織が異なるため別傷病とみなされるのです。
初診日の証明には「受診状況等証明書」という書類を医療機関に作成してもらいます。ただし、初診の医療機関と現在診断書を作成してもらう医療機関が同じ場合は、この書類は不要です。初診の医療機関がすでに閉院している、カルテが廃棄されているなど、初診日の証明が困難なケースもありますが、このような場合でも諦める必要はありません。
初診日の証明が困難なケースでの対応方法については、[関連記事: 初診日が証明できない場合の対処法]で詳しく解説しています。
条件2: 保険料納付要件
障害年金を受給するためには、初診日の前日時点で一定期間の年金保険料を納付していることが必要です。これを「保険料納付要件」と呼びます。
原則的な要件
初診日の前日時点で、初診日がある月の2ヶ月前までの年金加入期間のうち、3分の2以上の期間について保険料を納付または免除されていることが必要です。
特例措置(直近1年要件)
原則的な要件を満たしていなくても、初診日の前日時点で、初診日がある月の2ヶ月前までの直近1年間に未納がない場合は、障害年金を申請できます。この特例措置は令和8年4月1日前の初診日まで適用されます。
会社員として厚生年金に加入し続けていた方は、給与天引きで保険料が納付されているため、未納の心配はほとんどありません。一方、国民年金に加入していた方や、転職の合間に未納期間がある方は注意が必要です。
保険料納付要件を満たしているかどうかは、お近くの年金事務所で確認できます。年金手帳や基礎年金番号を持参して相談すれば、納付状況を教えてもらえます。
【例外】20歳前に初診日がある場合
初診日が20歳前にある場合は、年金保険料を納める義務がないため、保険料納付要件は問われません。ただし、20歳前傷病による障害基礎年金には所得制限があります。
条件3: 障害状態要件
最も重要な条件が、障害の状態が国の定める認定基準に該当していることです。
障害認定日とは
障害の状態を判定する基準日を「障害認定日」と呼びます。原則として、初診日から1年6ヶ月が経過した日が障害認定日となります。ただし、1年6ヶ月以内に症状が固定した場合(切断など)は、その日が障害認定日となります。
障害認定日の時点で障害の状態が認定基準に該当していれば「認定日請求」として申請でき、障害認定日まで遡って受給できます。障害認定日の時点では該当しなかったが、その後症状が悪化して該当するようになった場合は「事後重症請求」として申請します。
一般状態区分表による評価
乳がんを含む悪性新生物の障害認定では、「一般状態区分表」という基準が重要な役割を果たします。これはア~オの5段階で日常生活の状態を区分するもので、診断書にも記載されます。
| 区分 | 状態 |
|---|---|
| ア | 無症状で社会活動ができ、制限を受けることなく発症前と同等にふるまえる |
| イ | 軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行・軽労働・座業はできる |
| ウ | 歩行や身の回りのことはできるが、時に少し介助が必要なこともあり、軽労働はできないが、日中の50%以上は起居している |
| エ | 身の回りのある程度のことはできるが、しばしば介助が必要で、日中の50%以上は就床しており、自力では屋外への外出等がほぼ不可能 |
| オ | 身の回りのこともできず、常に介助を必要とし、終日就床を強いられ、活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られる |
一般的に、一般状態区分表のウ~オに該当する場合は、障害年金を受給できる可能性が高いとされています。ただし、これはあくまで目安であり、実際には検査数値、転移の有無、治療内容、日常生活動作の制限など、総合的に判断されます。
【受給要件チェックリスト】
| チェック項目 | 確認内容 |
|---|---|
| □ 初診日が証明できる | 受診状況等証明書が取得できる、またはカルテが残っている |
| □ 保険料納付要件を満たしている | 初診日前日時点で3分の2以上納付、または直近1年間未納なし |
| □ 初診日から1年6ヶ月経過している | 障害認定日を迎えている |
| □ 日常生活に支障がある | 一般状態区分表のウ~オに該当、または労働に制限がある |
| □ 治療の副作用で困難がある | 抗がん剤の副作用、手術後の後遺症などで日常生活が制限されている |
これらの条件をすべて満たしている場合、障害年金を受給できる可能性があります。ただし、実際に受給できるかどうかは、提出する診断書や申立書の内容によって大きく変わります。次のセクションでは、具体的な認定基準について詳しく見ていきましょう。
乳がんの障害認定基準|どのような状態で認定されるのか
障害年金の等級と年金額
障害年金には「障害基礎年金」と「障害厚生年金」の2種類があり、初診日にどの年金制度に加入していたかによって受給できる年金の種類が決まります。
障害基礎年金
初診日に国民年金に加入していた方、または20歳前に初診日がある方が対象です。等級は1級と2級の2段階で、3級はありません。
障害厚生年金
初診日に厚生年金(または共済年金)に加入していた方が対象です。等級は1級、2級、3級の3段階があり、さらに障害手当金(一時金)という制度もあります。障害厚生年金を受給する方は、同時に障害基礎年金も受給できます。
【障害等級と受給額の目安】
| 障害等級 | 障害基礎年金(年額) | 障害厚生年金(年額) | 障害の状態の目安 |
|---|---|---|---|
| 1級 | 約104万円 (月額約8.7万円) |
基礎年金+厚生年金 合計140~160万円程度 |
終日就床を強いられ、常に介助が必要。活動範囲がベッド周辺に限られる |
| 2級 | 約83万円 (月額約6.9万円) |
基礎年金+厚生年金 合計110~140万円程度 |
日中の50%以上就床しており、しばしば介助が必要。屋外への外出がほぼ不可能 |
| 3級 | – (制度なし) |
約62万円 (月額約5.2万円) ※最低保障額 |
労働に著しい制限がある。軽労働はできるが肉体労働は困難 |
※上記の金額は令和7年度(2025年度)の基準です。障害厚生年金の金額は、加入期間や平均報酬額によって個人差があります。最新の金額は日本年金機構のウェブサイトでご確認ください。
加算額について
障害基礎年金には、18歳到達年度末までの子(または20歳未満の障害のある子)がいる場合、子の加算があります。令和7年度は、1人目・2人目は各約23万円、3人目以降は各約8万円が加算されます。
障害厚生年金の2級以上には、65歳未満の配偶者がいる場合、配偶者加給年金(約23万円)が加算されます。
乳がんの認定基準「悪性新生物による障害」
乳がんを含む悪性新生物(がん)は、「悪性新生物による障害」として認定されます。使用する診断書は「血液・造血器・その他の障害用」です。
重要なのは、障害年金は病名やステージではなく、症状の程度と日常生活にどれだけ支障が出ているかで判断されるという点です。たとえステージⅠやⅡであっても、抗がん剤の副作用で日常生活に大きな制限があれば、障害年金の対象となる可能性があります。
等級判定の目安
1級の目安
終日就床を強いられ、常に介助が必要な状態です。具体的には、以下のような状態が該当します。
- 全身状態が極めて不良で、ベッド周辺以外の活動がほぼ不可能
- 食事、排泄、入浴などすべての日常生活動作に常時介助が必要
- 意識障害や高度の全身衰弱がある
- 一般状態区分表の「オ」に該当
2級の目安
日中の50%以上を就床して過ごし、しばしば介助が必要な状態、または軽労働もできず、日中の50%以上は起居しているものの時に介助が必要な状態です。
- 身の回りのことはある程度できるが、家事や外出には介助が必要
- 抗がん剤の副作用で強い倦怠感があり、日中の大半を横になって過ごす
- 痛みや息切れで自力での外出が困難
- 一般状態区分表の「エ」または「ウ」に該当
3級の目安(障害厚生年金のみ)
労働に著しい制限がある状態です。障害厚生年金のみの等級で、障害基礎年金には3級はありません。
- 軽作業や座業は可能だが、肉体労働は困難
- フルタイム勤務は難しく、時短勤務や休職中
- 通院や治療のため頻繁に仕事を休む必要がある
- 一般状態区分表の「イ」に該当することもある
ただし、これらはあくまで目安です。実際には、検査数値、転移の有無、治療内容、副作用の程度、日常生活動作の詳細などを総合的に評価して等級が決定されます。
認定で重視されるポイント
乳がんの障害年金認定では、以下のようなポイントが重視されます。
1. 抗がん剤治療の副作用
抗がん剤による副作用は、障害年金の認定で非常に重要な要素です。
- 全身倦怠感の程度(日中何時間横になっているか)
- 悪心・嘔吐、食欲不振による体重減少
- 手足の痺れ、感覚障害
- 貧血、白血球減少による易感染性
- 脱毛による心理的苦痛
2. 手術後の後遺症
乳房切除術やリンパ節切除術の後遺症も評価対象となります。
- リンパ節切除によるリンパ浮腫(腕の腫れ)
- 腕の可動域制限(腕が上がらない、重いものが持てない)
- 手術部位の痛みや違和感
- これらによる家事動作や就労への影響
後遺症が顕著な場合は、「肢体の障害用」の診断書を併用することで、より正確に障害の状態を伝えることができます。
3. 転移による症状
乳がんが他の臓器に転移している場合、その症状も評価されます。
- 骨転移: 強い痛み、骨折リスク、歩行困難
- 肺転移: 息切れ、呼吸困難、酸素療法の必要性
- 肝転移: 黄疸、腹水、全身状態の悪化
- 脳転移: 頭痛、めまい、高次脳機能障害、運動障害
4. 日常生活動作の制限
具体的にどのような日常生活動作が困難になっているかが重要です。
- 食事: 自分で準備できるか、食べる量はどうか
- 入浴: 一人で入浴できるか、介助が必要か
- 排泄: トイレまで自力で行けるか
- 着替え: 一人で着替えられるか
- 家事: 掃除、洗濯、料理ができるか
- 外出: 買い物や通院に一人で行けるか
5. 就労能力への影響
3級の認定では、労働能力の制限が重要な判断材料となります。
- フルタイム勤務が可能か、時短勤務しかできないか
- 立ち仕事、肉体労働が可能か
- 通院や体調不良で欠勤が多いか
- 休職中か、離職を検討しているか
これらのポイントを、診断書と病歴・就労状況等申立書で具体的に伝えることが、適正な認定を受けるための鍵となります。次のセクションでは、申請時の具体的なポイントについて解説します。
乳がんの障害年金申請で重要な4つのポイント
障害年金の認定は書類審査のみで行われます。そのため、提出する診断書や申立書の内容が、受給の可否を大きく左右します。ここでは、申請時に押さえておくべき4つの重要なポイントをご紹介します。
ポイント1: 診断書は2種類併用も検討する
乳がんで障害年金を申請する場合、基本的には「血液・造血器・その他の障害用」の診断書を使用します。この診断書には、がんの状態、治療内容、一般状態区分表、日常生活の状況などを記載する欄があります。
しかし、乳がんの場合、この診断書だけでは症状が十分に伝わらないケースがあります。特に以下のような後遺症がある場合は、「肢体の障害用」の診断書も併用することを強く推奨します。
- リンパ節切除後のリンパ浮腫で腕が腫れ、重いものが持てない
- 手術後の腕の可動域制限で、腕が上がらない
- 骨転移による歩行困難や起立動作の制限
- 脳転移による運動麻痺や歩行障害
診断書が2通必要になると、作成費用は1万円から2万円程度かかることもあります。しかし、1通の診断書だけでは症状が正確に伝わらず不支給になるリスクを考えると、2種類の診断書を併用する価値は十分にあります。
また、2つの障害を組み合わせて申請すると「併合認定」となり、より上位の等級が認定される可能性も高まります。例えば、それぞれ単独では3級相当の障害でも、併合することで2級が認定されるケースもあります。
ポイント2: 医師への診断書依頼の工夫
申請にあたって最も重要な書類が、医師に作成してもらう診断書です。しかし、多くの医師が「乳がんで障害年金を受給できる」こと自体を知らず、診断書の書き方にも慣れていないというのが現実です。
そのため、診断書を依頼する際には、患者さん側から日常生活の困難さを具体的に伝えることが非常に重要になります。
医師に伝えるべき内容
診断書作成を依頼する際は、以下のような情報を事前にメモにまとめて、医師に明確に伝えましょう。
- 抗がん剤の副作用: 倦怠感で日中何時間横になっているか、吐き気で食事がとれない日が週に何日あるか、手足の痺れでボタンがかけにくいなど
- 日常生活でできないこと: 買い物に一人で行けない、掃除機をかけられない、料理の準備ができないなど
- 介助が必要な場面: 入浴時に家族の見守りが必要、洗濯物を干すのに手伝ってもらうなど
- 就労への影響: 休職中である、フルタイム勤務が困難で時短勤務に変更した、通院で月に何日欠勤しているなど
- 痛みの程度: 骨転移の痛みで歩行が困難、鎮痛剤を1日何回服用しているなど
医師は診察室でのやりとりだけでは、患者さんの自宅での日常生活の様子を十分に把握できていないことが多くあります。「診察では元気そうに見えても、自宅では大半の時間を横になって過ごしている」といった実態を、具体的な数字や頻度を交えて伝えることが重要です。
社労士による医師向け依頼状の活用
当事務所では、診断書作成を依頼する際に、医師向けの依頼状を作成しています。この依頼状には、障害年金の制度説明、診断書の記載ポイント、患者さんの日常生活の詳細な状況などを記載し、医師が適切な診断書を作成できるようサポートしています。
ポイント3: 病歴・就労状況等申立書の書き方
病歴・就労状況等申立書は、発症から現在までの病状の経過、治療内容、日常生活の変化、就労状況などを、患者さん自身が記載する書類です。診断書を補完する重要な書類で、審査において大きな役割を果たします。
記載のポイント
病歴・就労状況等申立書は、発病から現在まで3~5年ごとに区切って記載します。以下のポイントを意識して作成しましょう。
- 時系列で具体的に: いつ、どのような症状があり、どのような治療を受けたか
- 日常生活の変化: 発症前はできていたことが、どのようにできなくなったか
- 副作用の詳細: 抗がん剤治療のたびにどのような副作用があり、何日間続いたか
- 家族の協力: どのような場面で家族の介助を受けているか
- 就労状況: 休職に至った経緯、退職を検討している理由など
- 心理的な影響: 再発への不安、外見の変化による外出困難など
重要なのは、診断書の内容と整合性を保つことです。診断書と申立書で記載内容に矛盾があると、審査で不利になる可能性があります。また、抽象的な表現ではなく、「週に3回は副作用で寝込む」「買い物は月に1~2回、家族と一緒のときだけ」など、具体的な頻度や回数を明記すると説得力が増します。
ポイント4: 申請のタイミング
障害年金の申請には、「認定日請求」と「事後重症請求」の2つの方法があります。
認定日請求(遡及請求)
障害認定日(初診日から1年6ヶ月後)の時点で障害の状態が認定基準に該当していれば、障害認定日まで遡って年金を受給できます。最大5年分まで遡って受給できるため、まとまった額の支給を受けられる可能性があります。
事後重症請求
障害認定日の時点では認定基準に該当しなかったが、その後症状が悪化して該当するようになった場合に行う請求です。この場合、年金は申請した月の翌月分から支給されます。遡っての支給はありません。
申請のベストタイミング
乳がんの場合、抗がん剤治療中など症状が重い時期に申請することが重要です。「もう少し様子を見よう」と先延ばしにしているうちに、治療が一段落して症状が軽減してしまい、申請のタイミングを逃してしまうケースがあります。
初診日から1年6ヶ月が経過し、現在も日常生活に支障がある状態であれば、できるだけ早く申請することをおすすめします。障害年金の審査には通常3~5ヶ月かかりますので、経済的に困窮する前に早めに手続きを開始しましょう。
【申請の流れ】
- 年金事務所で相談
- 保険料納付要件の確認
- 必要書類の案内を受ける
- 初診日の証明書を取得
- 初診の医療機関で「受診状況等証明書」を取得
- 初診と現在の医療機関が同じ場合は不要
- 診断書の作成依頼
- 主治医に診断書作成を依頼
- 日常生活の詳細を伝える
- 作成までに2~4週間かかることが多い
- 病歴・就労状況等申立書の作成
- 発症から現在までの経過を記載
- 診断書の内容と整合性を保つ
- 必要書類の準備
- 年金手帳、戸籍謄本、住民票など
- 振込先口座の通帳のコピー
- 年金事務所に提出
- すべての書類を揃えて提出
- 不備があると審査が遅れる
- 審査(3~5ヶ月)
- 日本年金機構で書類審査
- 追加書類を求められることもある
- 結果通知・受給開始
- 認定された場合、年金証書が届く
- 約1~2ヶ月後に初回振込
このように申請手続きは複雑で、多くの書類を正確に準備する必要があります。特に診断書の内容は受給を大きく左右するため、不安がある場合は専門家のサポートを受けることをおすすめします。
当事務所では、このような複雑なケースにも対応しています
- 初診日が不明確なケースの調査・証明サポート
- 医師への診断書作成に関する依頼状作成と情報提供
- 病歴・就労状況等申立書の作成代行
- 2種類の診断書併用による併合認定のサポート
- 不支給決定後の再申請・審査請求
神戸・兵庫県で多数の乳がん患者さんの申請サポート実績があります。まずはお気軽にご相談ください。お問い合わせはこちら
乳がんで障害年金を受給できた事例3選
ここでは、当事務所がサポートした乳がんの方の受給事例を3つご紹介します。それぞれ状況は異なりますが、適切なサポートと準備により、障害年金を受給できた実例です。
※以下の事例はすべて個人情報保護のため、内容を一部変更しています。実際のサポート内容に基づいた架空の事例です。
事例1: 40代女性・抗がん剤の副作用で障害厚生年金2級を受給
※個人情報保護のため、内容を一部変更しています
【背景】
兵庫県在住の40代女性。会社で事務職として15年勤務していましたが、2年前に左乳がん(ステージⅡ、浸潤性乳管がん)と診断されました。乳房部分切除術とリンパ節切除術を受け、術後は抗がん剤治療(6コース)と放射線治療を実施。現在はホルモン療法を継続中です。
抗がん剤治療の副作用が強く、日中の5~6時間は横になって過ごす生活が続いています。倦怠感、吐き気、手足の痺れがあり、家事は夫と大学生の娘が分担。会社は休職中ですが、傷病手当金の支給期間が終了し、経済的な不安が大きくなっていました。
【困難だった点】
「まだ動けるときもあるから、自分は障害年金の対象ではないのでは?」という不安を抱えていました。また、診断書を医師に依頼することに対して「先生にご迷惑をかけるのでは」という心理的なハードルもありました。
主治医から「治療は順調に進んでいます」と言われており、診察室では無理をして元気に振る舞っていたため、医師が自宅での日常生活の困難さを十分に把握していない状況でした。
【当事務所のサポート内容】
まず、詳細なヒアリングを行い、日常生活の状況を時間軸で整理しました。「朝起きてから就寝までの1日の流れ」を具体的に伺い、どの場面でどのような困難があるかを明確にしました。
その情報をもとに、医師向けの診断書作成依頼状を作成。「診察時には無理をして元気に見せているが、自宅では日中の大半を横になって過ごしている」「副作用で週に3~4日は家事ができない」など、具体的な日常生活の状況を医師に情報提供しました。
また、病歴・就労状況等申立書も詳細に作成し、抗がん剤治療の各コースでどのような副作用があり、どれだけ日常生活に支障が出たかを時系列で記載しました。
【結果】
申請から約4ヶ月後、障害厚生年金2級の認定を受けることができました。年額約130万円(基礎年金約83万円+厚生年金約47万円)を受給。障害認定日から6ヶ月遡って認定されたため、初回振込時には約75万円の一時金も受け取ることができました。
【ご本人の声】
「自分が対象になるとは思っていませんでした。社労士さんに『諦める必要はない』と言っていただき、背中を押されました。経済的な不安が軽減され、治療に専念できるようになりました。専門家のサポートで安心して申請できて、本当に感謝しています」
事例2: 50代女性・初診日証明が困難だったが障害基礎年金2級を受給
※個人情報保護のため、内容を一部変更しています
【背景】
神戸市在住の50代専業主婦。5年前に右乳がん(ステージⅢ)と診断され、乳房全切除術を受けました。その後、骨転移が見つかり、現在も抗がん剤治療を継続中です。骨転移による痛みがあり、鎮痛剤を1日3回服用。外出は通院のみで、家事のほとんどは夫が行っています。
経済的に困窮しており、障害年金の申請を決意しましたが、最初に受診した個人クリニックがすでに閉院しており、カルテも見つからない状況でした。
【困難だった点】
初診日を証明する「受診状況等証明書」が取得できない状況でした。5年前のことで記憶も曖昧で、「どの病院を最初に受診したのか」「いつ頃だったのか」を思い出すのにも苦労されました。
また、最初のクリニックから紹介された総合病院でも、当初は「乳腺症の疑い」として経過観察をしており、その後の精密検査で乳がんと確定診断されたため、「どの時点が初診日になるのか」も不明確でした。
【当事務所のサポート内容】
まず、ご本人と一緒に受診歴を詳細に振り返りました。保険証の履歴、診察券、領収書、お薬手帳など、残っている資料をすべて確認。最初のクリニックを受診した時期を特定しました。
クリニックは閉院していましたが、診療所の閉鎖届を保健所で確認し、カルテの引継ぎ先を調査。幸い、カルテが医師会の保管センターに保存されており、そこから初診日の記録を入手することができました。
また、総合病院での「乳腺症疑い」の時点ではなく、「乳がんの疑いで精密検査を受けた日」が初診日として認められるよう、医療機関での診療経過を詳細に整理しました。
【結果】
申請から約5ヶ月後、障害基礎年金2級の認定を受けることができました。年額約83万円を受給。初診日が無事に証明でき、国民年金加入期間中の初診日として、障害基礎年金の支給が決定しました。
【ご本人の声】
「初診日が証明できず、もう無理だと諦めていました。社労士さんが丁寧に調べてくださり、閉院した病院のカルテまで探し出してくれて、本当に驚きました。『諦めない障害年金』という言葉の意味が分かりました。受給できて、治療を続ける希望が持てました」
事例3: 50代女性・一度不支給になったが再申請で障害厚生年金3級を受給
※個人情報保護のため、内容を一部変更しています
【背景】
兵庫県在住の50代会社員。3年前に乳がん(トリプルネガティブ、ステージⅢ)と診断され、乳房全切除術とリンパ節切除術を実施。術後に抗がん剤治療と放射線治療を受けました。現在も定期的な通院と検査を継続中です。
治療開始から1年8ヶ月後、自分でインターネットの情報を参考にして障害年金を申請しましたが、不支給の決定を受けました。「もうダメだ」と落胆していましたが、知人から当事務所を紹介され、相談に来られました。
【困難だった点】
最初の申請では、診断書に症状の詳細が十分に記載されていませんでした。医師は「仕事を続けている」ことを重視し、軽度の障害と判断。診断書の「日常生活の状況」欄にも「自立」と記載されていました。
しかし実際には、フルタイム勤務から時短勤務に変更しており、通院のために月に2~3回欠勤していました。また、抗がん剤治療後の数日間は倦怠感で家事もできず、夫に頼っている状況でしたが、これらの情報が診断書に反映されていませんでした。
【当事務所のサポート内容】
まず、不支給決定の理由を詳細に分析しました。診断書の記載内容と病歴・就労状況等申立書の内容を確認し、「日常生活の困難さが十分に伝わっていない」ことが不支給の主な原因と判断しました。
再申請にあたり、医師に対して詳細な情報提供を行いました。具体的には、以下の内容を記載した依頼状を作成しました。
- 時短勤務に変更した経緯と理由
- 通院や体調不良による欠勤の頻度
- 抗がん剤治療後の副作用の期間と程度
- 家事や日常生活での家族の協力状況
- 職場での配慮(重い荷物を持たない、立ち仕事を避けるなど)
また、病歴・就労状況等申立書も全面的に書き直し、「時短勤務で働いているが、それでも日常生活には大きな制限がある」ことを詳細に記載しました。
【結果】
再申請から約4ヶ月後、障害厚生年金3級の認定を受けることができました。年額約62万円を受給。一度不支給になっても、適切な準備と情報提供により、再申請で認定されることを実証できました。
【ご本人の声】
「不支給の通知を受けたときは絶望しました。でも、社労士さんに『諦めなくて大丈夫です』と言っていただき、もう一度チャレンジする勇気をもらいました。診断書の書き方ひとつで、こんなに結果が変わるとは思いませんでした。再申請で認定され、本当に嬉しかったです」
このように、乳がんで障害年金を受給するためには、症状を正確に伝えること、適切なタイミングで申請すること、そして専門家のサポートを受けることが重要です。一度不支給になっても、諦める必要はありません。
乳がんの障害年金でよくある質問
乳がんで障害年金を検討されている方から、よく寄せられる質問とその回答をまとめました。
Q1: 再発や転移がなくても受給できますか?
A: はい、受給できる可能性があります。
障害年金は病名やステージではなく、「現在の日常生活への影響度」で判断されます。再発や転移がない場合でも、抗がん剤の副作用で強い倦怠感や吐き気があり、日常生活に大きな支障が出ていれば、障害年金の対象となる可能性があります。
重要なのは、「日中の何時間を横になって過ごしているか」「どのような家事ができないか」「家族の介助が必要な場面はどこか」といった具体的な日常生活の制限を、診断書と申立書で正確に伝えることです。
Q2: 仕事を続けていても受給できますか?
A: 状況によっては受給できる可能性があります。
フルタイム勤務が困難で時短勤務に変更している場合や、軽作業・座業のみで肉体労働ができない場合は、障害厚生年金3級に該当する可能性があります。また、休職中であれば2級以上の可能性もあります。
3級の認定では「労働に著しい制限がある」ことが要件となります。頻繁に欠勤する、通院のために仕事を休む必要がある、職場で特別な配慮を受けているといった状況も、認定の判断材料となります。
ただし、フルタイムで問題なく働いている場合は、3級の認定も難しくなります。
Q3: 診断書の費用はどのくらいかかりますか?
A: 1通あたり5,000円~10,000円程度が一般的です。
診断書の作成費用は医療機関によって異なりますが、多くの病院では1通あたり5,000円~10,000円程度です。「血液・造血器・その他の障害用」と「肢体の障害用」の2種類を併用する場合は、その倍の費用がかかります。
また、初診日を証明する「受診状況等証明書」も、1通あたり3,000円~5,000円程度かかります。
Q4: 申請から受給までどのくらいかかりますか?
A: 通常3~5ヶ月程度かかります。
申請してから日本年金機構での審査が完了し、結果通知が届くまでに、通常3~5ヶ月程度かかります。書類に不備があったり、追加資料の提出を求められたりすると、さらに時間がかかることもあります。
認定された場合、年金証書が届いてから約1~2ヶ月後に初回の振込があります。遡及請求(認定日請求)の場合は、さらに時間がかかる場合もあります。
Q5: 自分で申請するのと社労士に依頼するのとどちらがいいですか?
A: それぞれにメリット・デメリットがあります。
自分で申請する場合
費用をかけずに申請できますが、制度の理解、書類の準備、医師への説明など、すべてを自分で行う必要があります。診断書の記載内容が不十分で不支給になるケースも少なくありません。
社労士に依頼する場合
着手金や成功報酬などの費用はかかりますが、以下のようなメリットがあります。
- 医師への適切な情報提供と診断書作成サポート
- 病歴・就労状況等申立書の作成代行
- 初診日証明が困難なケースでの調査サポート
- 不支給リスクの大幅な軽減
- 審査請求や再申請への対応
特に、初診日の証明が困難な場合、医師が障害年金に詳しくない場合、一度不支給になった経験がある場合は、専門家のサポートを受けることを強くおすすめします。
Q6: 他の障害と併合できますか?
A: はい、併合認定が可能です。
乳がんの症状と、手術後の後遺症(リンパ浮腫、腕の可動域制限など)を併合して申請することができます。この場合、「血液・造血器・その他の障害用」と「肢体の障害用」の2種類の診断書を提出します。
また、乳がんの治療による精神的な影響でうつ病を併発している場合は、精神の障害として併合認定される可能性もあります。併合することで、単独では3級相当の障害でも、2級が認定されることもあります。
Q7: 更新はありますか?
A: 有期認定の場合は定期的に更新審査があります。
障害年金には「永久認定」と「有期認定」があります。乳がんの場合、多くは有期認定となり、1~5年ごとに更新審査が行われます。更新時には、再度診断書を提出する必要があります。
症状が改善していない場合や悪化している場合は、更新後も継続して受給できます。一方、症状が大幅に改善し、日常生活への支障がなくなった場合は、等級が下がったり、支給停止になったりすることもあります。
更新時期が近づくと、日本年金機構から診断書の用紙が送られてきますので、期限内に提出しましょう。
他の疾患での障害年金申請については、[関連記事: 疾患別の障害年金申請ガイド]もご参考ください。
まずは無料相談から、一歩を踏み出しましょう
ここまで、乳がんで障害年金を受給するための条件、認定基準、申請のポイント、そして実際の受給事例についてご説明してきました。
重要なポイントをおさらいすると:
- 乳がんでも障害年金を受給できる可能性がある
- 重要なのは「病名やステージ」ではなく「日常生活への影響度」
- 再発・転移がなくても、抗がん剤の副作用で日常生活に支障があれば対象
- 医師への適切な情報提供と診断書の記載内容が受給の鍵
- 初診日証明や複雑な書類作成に不安がある場合は専門家のサポートが有効
- 一度不支給になっても、再申請で認定される可能性がある
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- 病歴・就労状況等申立書の作成代行: 診断書を補完する重要書類を、専門家の視点で作成します
- 複雑なケースにも対応: 2種類の診断書併用、併合認定、不支給後の再申請・審査請求にも対応
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